「バレンタイン監督、復帰嘆願署名のファンを試合に招待」
 8年ぶりに帰ってきた千葉ロッテ・マリーンズのバレンタイン監督。1995年、前年まで9年連続Bクラスだったロッテを2位に引き上げた貢献者だ。確かにあのシーズン、ロッテというチームは何かが変わったような印象を受けた。そしてその後の不可解なバレンタイン監督の解任。それにたいし「何故?」という疑問を、誰もがもったのではないだろうか。

 広岡ゼネラルマネジャー v.s. バレンタイン監督というのは、<管理野球・精神主義・質より量の練習> v.s. <チーム内競争原理の導入・質の高い練習と休養を重視したコンディショニングつくり、選手の自主性とモチベーションの向上>、といった野球コンセプトの根本からの対立でもあったようだ。そして広岡による陰湿ないやがらせや、シーズンが終わってからの監督解任。でもけっきょくは翌年のチーム低迷で(当然だ)広岡も解任され、ロッテの混乱が続く。
(そのへんの事情が、↓このサイトで詳しく語られています。)
http://www.webmie.or.jp/~m-yama/col/columnvale.htm

 野球の監督の力量は、テレビなどの野球解説を聞いてたら分かる。つまらない解説をする監督はたいていダメ。その典型が、ダイエーの監督になった田淵とか、元巨人の選手でオリックスの監督になった土井。土井なんかは、巨人びいきするだけの、ほんとうにつまらない解説をしていた。オリックスでも選手の人望はなく(巨人時代の自慢話ばかりしてたらしい)、イチローの才能も見抜けず、采配もダメで、けっきょく監督をクビ。広岡達朗は土井よりずっと鋭い解説をしてたけど、よく選手にケチをつけしてたところが共通しており、どちらも偉そうで鼻持ちならないイヤらしさを感じさせていた。まあ二人とも、もうどこからも二度と声をかけられることはないだろうけど。

 落合の野球解説は面白かった。中日の監督になったらしいけど、けっこう成果を出しそうな気がする。チーム力よりも個人の能力重視の、サッカーのジャパンのようなチーム作りになるのかもしれない。新聞社のインタビューにあった次のコメントが落合らしい。
 「いろんな所を歩いて見て回って、選手に『監督、見ててくれているんだな』と感じさせることは、しっかりやっていこうと思う。選手にとって何がつらいかというと、見てもらえない、相手にしてもらえない、邪魔者扱いされるということ。それだけはやっちゃいけない。」

 落合が監督として始めた「1、2軍の枠を取り払ったキャンプ」というのは、かってバレンタイン監督がやったことと同じだ。(競争原理というのは、特定の誰かに既得権を持たせるようなことはせず、スタートのところで機会均等でフェアにやるということでもある。) そして現場はコーチに任せて、口出しはしないらしい。プロ野球は大学・高校のチームとは違うんだし、トップの役割というのはそういうものだ、と、こうやって外野から偉そうに言うのは簡単だけど、実際プロ野球界でそれを実行するというのは、それなりに大変だったのかもしれない。それともしかして過去に、トップが余計な口出しをして潰されてしまった選手をたくさん見てきたのかもしれない。(1)

(1) 以前「NHK-FM 日曜喫茶室」という番組に、元プロ野球コーチ(名前は失念)が出ていて、落合やイチローなどのすぐれた選手とそうでない選手の特徴的な違いを語っていた。それによると、すぐれた選手というのはバットやグローブなどの道具を非常に大事に手入れして、ロッカーなどもきれいにしておくらしい。それにたいし成績のパッとしない選手は、道具もロッカーも乱雑にしてるとのこと。


 組織論から見ると、監督になったジーコやバレンタインや落合にしても共通しているのは、選手たちはプロフェッショナルなのだから、監督の仕事としては、いかに選手それぞれが能力を最大限発揮できる環境をつくりあげてゆくかということを最優先に考えているようだ。でもそれは、それぞれの選手の能力が何パーセントかアップしたら、チームの能力もそれの可算でアップするというのでもない。例えばもし各選手の能力が2割アップするとして、1+0.2=1.2 が10人集まって10の能力のチームが12になるのではなく、それ以上の15や30の能力のチームになる可能性を含んでいるのだ。自己組織化とか生成する組織というというのは、そういうものなのだから。(2) それは自然なことなのだけど、理屈では説明しずらいので、マジックのように写ってしまうことがある。多くの人が1995年のロッテのチームとベンチに見たのも、そしてファンがバレンタイン監督復帰嘆願書に署名したのも、そこのところなのだろう。

(2) ただし、選手自身が旧態依然とした意識に留まっていたりしては、うまくいかない可能性もある。(言われたことだけハイハイと言ってやるのは、ある意味、楽なのだから。) もちろんそのへんの意識改革も、監督の仕事ではあるのだけど。


 組織を変える人間というのは、何がしかの<外部性>というものを持っているものだ。バレンタイン監督は文字どおり米国から来た人だし、落合にしてもプロ野球界の派閥や学閥といったにも属さない、いちばん外部に近い人だ。そしてそこがまた逆に、利点として生きてくる。(それには、内にあっては見えないことも外からは見える、といったことも含まれる。)
 個人的には、今年の日本シリーズがドラゴンズ対マリーンズになるのを期待しています。

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