因と縁と果−MEMO(1)

2004年4月10日
・因果論

 何か物事が起きたとき、人は因果関係を単純にして理解しようとする傾向がある。原因一つで即結果が生じたり、あるいは介在する条件(縁)をひとつくらいにして、すぐ結果がもたらされたことにするのだ。ふつうはそれを逆に辿って、これこれの原因(〜のせい)でこういう結果が起きたのだ、という風に解釈されることになる。
 でも実際は、それでおよそ言い当てられることもあれば、そう単純な話では済まないことも多い。というのは、ある原因からある結果が生じるまでには、さまざまな要因(縁)が介在していることが多いからだ。
 それともうひとつ、原因−結果関係は必然を想定しているけど、必ず偶然の入り込む余地があるということ。偶然に起きたことは、しばしば合理的な説明を困難にするし、また事象の複雑性を増大させる。この複雑性を縮減する方策としても、誰それのせいでそうなったというように、原因を個人に帰することが行なわれたりするのだ。その方が話が分かりやすいし、あまり物事を考えずに済むからだ。
 マスコミというのが、複雑な情報を単純な因果関係に落として、伝わりやすくする機能を持っている。そのとき、明示的・暗黙的に示される「〜のせい」という原因を元に、ときには情に訴えて煽るという手段がとられる。感情的な昂ぶりも単純な因果関係と同様に、複雑性を消し去るのに有効に働く。新聞でいうと朝日から読売・産経にいたるまで、そしてテレビなども含めて、メディアはほとんどそうした部分を持っている。それは政治家の発言についてもそっくり当てはまる。マスメディアや政治家は「煽ってナンボ」でもあるのだ。煽りはしばしば自分たちの正義として語られる。(ということは、正義に反する者や勢力などの悪と対にされて語られor騙られる。) しかもそれは情を伴った一定のパターンに乗って、受け入れやすいかたちで送られてくるので、読者や視聴者や選挙民もそれに同乗して正義を主張することができるようになっている。

 情が悪いというのではない。思考に情はあって当然なのだが、それがコンプレックスなど何か鬱屈とした心情となって無意識に沈潜していて、絶えず放出の機会を窺っているというのが問題なのだ。

 縁という言葉は、「何かのご縁で」とか「縁としか言いようがない」などと言われたりすることがあるように、偶然に生じた関わりも含まれる。(ただし縁というのは、結果の良否に関わらない中立的な言葉である。)つまり物事の生起には、<因>があってそれにいくつかの<縁>が作用して、そして<果>に結ばれるのだが、多くの場合、文脈として<縁>を読む必要があるということです。

 以下、これらに関連したこと。

・回転ドア事故は母親に責任にがあるのか?

 六本木ヒルズの回転ドア事故について、母親に責任にがあるという話も出てるみたいで吃驚した。手をしっかり握って離れないようにしてなかったからだって。じゃあ、手錠でもかけて繋いでおけというのか。だいたい、街なかの商業施設やデパートを一人や友だちと歩いてる6、7才くらいの子供なんか、べつに珍しくもないっていうのに。それに六本木ヒルズって、親が絶対子供の手を放してはいけないくらい危ないところだったということなのか? たしかに危ない場所だったわけだけど、そんな認識を誰も持っていないからみんな行くわけだし。それにふつう6、7才くらいの子は、マザコンなら仕方ないけど、常時親と手なんかつないでられないだろう。親だって事情は同じだろう。べつに手をつないで川を渡るわけじゃないんだから。
 要するにつまり母親に責任があるというのは、全くピントを外してる、現実を無視した空論なのだ。それどころか、もし親の責任ということにして回転ドアをそのままにしておけば、必ずまた被害者が出るだろうから、何の問題解決にもならないのだ。

 親の監督責任を持ちだすのは、それによって技術と安全の問題やバリアフリー、そして回転ドアを設計に採用したことの可否といった問題を抜きに、話を単純なものにおとし込むことができるからなのだろう。
 でも実はそういう人たちは、常日ごろから何らかの思い込みやイデオロギーや心理的事情によって、親の責任を言い出せるような機会を待ちわびているのではないか。自分はそういうミスをしない立派な親である(あるいは親になる)ということを言いたいために。
 そして親にも責任があるという人たちの主張は、マスコミ批判とセットになっていたりする。いわく、マスコミはここぞとばかりにメーカーやビル側ばかり叩き過ぎる云々と。
 でも新聞記事を読んだ限りでは、不当な書き方はしてなかったと思うし、(前にも書いたとおり)どう考えてもメーカーやビル側のに非がある。
「もはや国民のスポーツと化したマスコミ批判」(N・ボルツ)という感じ。そうしてしたり顔でマスコミ批判をする人も、実は日ごろからそういうことを言いたくててウズウズしてるのだろう。
(下に続く)

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